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ブランド誕生から50周年を迎え、クレドールが新たな幕を開けた。

第1弾として選ばれしは、新しいクレドール ゴールドフェザー。かつて世界最薄を誇ったムーブメントを搭載した薄型ドレスウォッチだ。ラグジュアリースポーツが全盛のいま、新たなドレスウォッチはどこを目指すのか?

ゴールドフェザーの歴史とは、すなわちセイコーの薄型メカニカルの原点であり、いまもその象徴である。始まりは1950年代。日本の時計産業が戦後復興から再び活気を取り戻し、世界を目指した時代だ。

当時、品質と機能の実証としてまず求められたのは精度だった。国内でも国産時計品質比較審査会が開催され、さらにその先にはスイス天文台クロノメーターコンクールがあった。こうした高精度を追求したのがグランドセイコーだ。そしてその一方で対抗軸にあった薄型を追求したのが、セイコー ゴールドフェザーである。何故、薄型が重視されたのか。それは精度と同様に技術力のアピールだったから、とセイコーウオッチの商品企画、神尾知宏氏は言う。

50周年記念 ゴールドフェザー U.T.D. 限定モデル(写真右)と、そのダイヤルのモチーフになったゴールドフェザーを源流にする1970年代の「セイコー特選腕時計」の薄型ドレスウォッチ(写真中。コレクター所蔵品)。当時はこれと同じダイヤルとムーブメントを用いた提げ時計(写真左。セイコー ミュージアム 銀座所蔵)もあった。

「薄型化は、高度な設計と製造、さらに組み立てや調整の匠の技能が合わさった総合的な技術です。当時、世界に誇る製品を目指し世に送り出そうと高まる気運がグランドセイコーとセイコー ゴールドフェザーに注がれ、とくに後者が搭載したCal.60は、中3針の手巻き式で当時世界最薄の2.95mmを実現したことで、精度と並ぶセイコーの技術力の象徴となりました」

 その開発思想は継承され、1969年に2針化した1.98mm厚のCal.6800(Cal.68系)として結実した。搭載したのが名機、セイコー U.T.D.(Ultra Thin Dress)だ。このCal.68系は、その後もアップデートを重ねながら、クレドールを代表する薄型ムーブメントとして今なお進化を続ける。
 いわば精度が数値化される技術であるのに対し、薄さはよりフィジカルに即した技術といえる。前述した総合力に加え、デザインにも視覚に訴える薄さの演出がなされた。外装設計担当の石田正浩氏が解説する。

 「(オリジナルのゴールドフェザーは)薄型ムーブメントに加え、ケースをより薄く見せるため、風防を切り立てる一方で、サイドを薄く仕上げていました。さらに裏蓋をすり鉢状にして肌との接触面を減らし、薄く感じるようにしていたのです。ラグも正面は極力細くしていますが、見えない側面や根本を厚くすることで強度と耐久性を与えていました」

 新開発の薄型ムーブメントを始め、こうした細部にいたるまで多くの創意工夫を盛り込み、オリジナルのゴールドフェザーは完成した。羽根のような美しさと触れた時の軽やかさを目指した、その名にふさわしい薄型ドレスウォッチだったのだ。

ブランド創成期の薄型ドレスをオマージュした、新時代のゴールドフェザー U.T.D.

セイコー ゴールドフェザーは1960年の誕生から、その役割を1969年に登場した高級時計コレクション「セイコー特選腕時計」へと引き継いでいった。そして1974年に「セイコー特選腕時計」はセイコーの上位ブランドのひとつとして独立。それが現在のクレドールである。ブランド誕生50周年を記念して今年発表されたクレドール ゴールドフェザーU.T.D.限定モデルでは、70年代当時の薄型ドレスウォッチのダイヤルをモチーフとした。

クレドール ゴールドフェザーU.T.D.限定モデル GCBY995

1974年のオリジナル。
 限定モデルのデザインのもととなったオリジナルは、ケースとラグが一体化したシェイプの正面をフラットに仕上げ、切り立ったボックス状の風防をベゼルリングが囲む。裏蓋は縦方向の平面からサイドラインに向かって傾斜をつけ、薄さをより演出していた。これに対し、限定モデルはボンベダイヤルをケース全面に広げ、初代セイコー ゴールドフェザーを範に取る全体に柔らかで優美なフォルムだ。ラグはテーパーをつけ、面取りしたモダンなスタイル。シースルーバック仕様にも関わらず、8mmという薄さを実現したのは新開発のケース構造にある。
 「当時は非防水(編注;ゴールドフェザーのオリジナル)でしたが、日常生活防水にするためにはパッキンなどでのシーリングが必要で、そのため本来ムーブメントの周囲にある中枠をケースと一体化しました。さらにボンベダイヤルの採用には、ケース内側の底部をコンマ数ミリレベルですり鉢状にし、中枠を省いても強度を担保し、収納位置もより下げたのです」(石田氏)

50周年記念 ゴールドフェザー U.T.D. 限定モデル

GCBY995 121万円(税込)

ケースにはステンレススティールを採用する。これも1979年にクレドールがそれまでのプレシャスメタルからSSを採用し、より多様性のあるドレスウォッチとして独立ブランドになった経緯を踏まえれば、記念限定らしいオマージュなのである。世界限定100本。4月19日(金)発売予定。
 中枠のケース一体化には、加工を含め新たな作り方やプロセスも開発したという。これも手作りに近いクレドールだからこそできたといえる。

 最大の特徴であるダイヤルは、横ストライプに雪氷のようなテイストを施したオリジナルに対し、限定モデルではボンベ形状に繊細な和紙や絹糸を思わせるテクスチャー感で仕上げる。そして共通する極細のローマ数字のインデックスについて神尾氏はこう説明する。

 「これは当時の印刷技術を現代的に継承するべく復活させました。プリントは交差部分や角ほど印刷がつぶれやすく(インクが溜まりやすいため)、それを想定したセリフ(書体の端飾り)に補正してすっきりと見せるなど、これまでのデザイナーたちが培ってきた経験とノウハウを注ぎました。一方、当時に比べると現代では多版を重ねることができるようになったので、数字はより立体的になっています。繊細なインデックスに合わせて針はドーフィンにセンターラインを記し、視認性を上げました。

 手に取ったあとの気づきがあってこそ、愛着につながる。そうした思いから、クレドールは正規販売店として認定されたクレドールサロンや、クレドールショップでのみ購入が可能だ。特にブランド50周年を迎えた今年は、例年以上にその世界観の訴求に力を注ぐという。伊勢丹 新宿店のクレドールショップが、ブランドの世界観をより一層体現し体感できるクレドールサロン(3月27日より)として生まれ変わったこともその一環で、リニューアルに伴い4月4日~4月30日にかけてフェアを開催している。そこでは、本稿で紹介した50周年記念 ゴールドフェザー U.T.D. 限定モデルがサンプル展示されるほか、対象商品を購入することでビスポークストラップ(※)かオリジナルノベルティが進呈される。クレドールの世界へ没入するのに、またとない機会となるだろう。

※対象モデル購入で、好きな素材・色から選べるセミオーダーストラップをプレゼント(納品までは6カ月程度の時間を要する)。 対象モデルについては売り場スタッフまで。ゴールドフェザーSSモデルの場合は、美錠も付属。

IWCは本日、ブランド初となるセキュラーパーペチュアルカレンダーを発表し、特別な領域へと踏み入った。

この超高精度なカレンダーキャリバーは、過去に4回しか設計されていない。このカレンダーは、2400年までの、各世紀の始まりまでスキップされるうるう年までも調整する。ただそれよりもすごいのは、彼らがムーンフェイズの精度の記録を4500万年にわたって正確に表示するという新記録を打ち破ったことだろう。そして、本日発表されたほかの新しいポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダーと、基本的に同じケースサイズという次元でそれを行ったのだ。

ここで最大の功績を選ぶのは難しい。昨年まで、セキュラーパーペチュアルカレンダーモデルを作っていたのは、パテック フィリップの懐中時計Cal.89、スヴェン・アンデルセンのパーペチュアルセキュラーカレンダー、そしてフランク・ミュラーのエテルニタス メガ 4の3ブランドだけだった。4年ごとに、カレンダーに1日を追加する普通のスケジュールでは、太陽の周りを回る地球の自転の正確な偏りを考慮することができない。セキュラーパーペチュアルカレンダーは、うるう年が“00”で終わる年には1日を追加しなければならないが、400で均等に割り切れる年にはスキップされないという事実を考慮に入れている。その後、ドミニク・ルノー氏とジュリアン・ティシエ氏による新進気鋭のファーラン・マリにて、信じられないほどシンプルなセキュラーカレンダーモジュールがリリースされ、人々を驚かせた。これは普通のラ・ジュー・ペレ社製G100ムーブメントを、Only Watch 2023のために、世界で最も挑戦的なコンプリケーションのひとつへと変貌させたものだ。いまやIWCも、パーペチュアルカレンダーの精度を保証する新しい400年歯車を備えた時計を発表し、このカテゴリーに加わった。

プレビューで公開されたプロトタイプ。Photo by Mark Kauzlarich
IWCを象徴するダブルムーンディスプレイは、北半球と南半球のムーンフェイズを表示し、4500万年という精度を誇る。これは以前までの記録保持者であるアンドレアス・ストレーラー ソートレル・ア・リューン・パーペチュエル 2M(206万757年経過すると調整が必要)の精度をはるかに上回る。そして同社のムーンフェイズ表示で最も精度が高いのは、577.5年に1回の調整で済む、2003年発表のポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダー(Ref.IW5021)であった。IWCはスーパーコンピューターを駆使して、22兆通りの歯車の組み合わせをシミュレートし、結果3つの中間ホイールを使った新しい減速歯車列を完成させた。
 これらはすべて、ポリッシュ仕上げとサテン仕上げが混在した44.4mm径×15mm厚のプラチナケース(技術的にはほかのポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダーより0.1mm厚い)に収められている。文字盤はガラス製で、その裏面はフロスト仕上げとホワイトのラッカー仕上げが施してある。ガラス製サブダイヤルはそれぞれ文字盤に固定されてから印刷される一方、文字盤装飾は手作業で植字。またこの時計は、表と裏にダブルボックスサファイアが施されている。IWC ポルトギーゼ・エターナル・カレンダーは限定版ではないが、“価格要問合せ”となっているため、8桁はくだらないだろう。

我々の考え
IWCの歴史は、クルト・クラウス以前と以後の2つの時期にわけることができる。元主任時計師であるクルト・クラウスは、1985年、同社初のパーペチュアルカレンダーである“ダ・ヴィンチ”を開発・指揮を執り、デビューを飾った。それ以来、彼らはスプリットクロノグラフを備えたパーペチュアルカレンダー、グランドコンプリケーション(ミニッツリピーターを追加)、そして“イル・デストリエロ・スカフージア”(トゥールビヨンを追加)などを製造していった。しかしこの時計はクルト・クラウスから始まった、40年近くかかった開発の集大成である。それだけでも祝うに値する。しかし、 それを(比較的)装着可能な44.4mm径×15mm厚のケースに入れたこともまたひとつの成果だ。もしポルトギーゼ・パーペチュアル・カレンダーを探しており、(非常に大きな)アップグレードのための資金があるなら、この新しいエターナル・カレンダーを買わない理由はないだろう。

プロトタイプを装着。Photo by Mark Kauzlarich
私が見たプロトタイプは、ガラス製ホワイト文字盤のコントラストがほとんどなく(特にプラチナケース)、全体的なデザインにあまりメリットを与えていない。残念なことに最終的な変更がまだ加わるため、あまり撮影することができなかった(裏蓋の撮影はNGだった)。IWC側も、最終的な構造を見せるためのムーブメントイメージをまだ共有していない。


ガラス製の文字盤にもかかわらず、正面から見ると、開口部で示されない限り、興味深いものを見ることはできない。細い針も文字盤上で見失いやすく、アプライドシルバーの数字は(針と同様)青くしたほうがよかっただろう。IWCのこの大胆な成果に対しては、ほかのポルトギーゼにはないサテン仕上げやカラーエナメルを使用した、より伝統的な文字盤デザインが適していたかもしれない。そうすれば、フローティングガラスのサブダイヤルは、この時計の特別な性質を際立たせるのに十分だったかも。しかし、IWCは彼らの大きな成果をひとつの形だけで存在させるようなことはしないので、私がもっと気に入るようなバリエーションが将来出てくることを期待している。待っていても最初のモデルは手に入らないが、それは間違いなく、コレクション性の高いものになるだろう。

基本情報
ブランド: IWC
モデル名: ポルトギーゼ・エターナル・カレンダー(Portugieser Eternal Calendar)
型番: IW505701

直径: 44.4mm
厚さ: 15mm
ケース素材: プラチナ
文字盤: ガラス製、ホワイトラッカー
インデックス: ロジウムメッキの針とアプライドインデックス
夜光: なし
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: サントーニのブラックアリゲーターストラップ、プラチナ製フォールディングクラスプ


ムーブメント情報
キャリバー: 52640
機能: 時・分・スモールセコンド、セキュラーパーペチュアルカレンダー(日付、曜日、月、4桁の年表示)、4500万年精度の永久ムーンフェイズ北半球と南半球の両方に対応)、不規則なうるう年を認識する400年歯車、スモールハッキングセコンド
パワーリザーブ: 約7日間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 54
追加情報: サファイア製ダブルボックス風防(両面反射防止加工)

ウブロは現代ビジュアルアーティストのダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)をコラボレーターに迎え入れた。

先週、世界初のサファイアクリスタル製懐中時計であるアーシャム ドロップレットが発表されたが、これは彼がウブロの公式アンバサダーとして初めててがけた時計である。


 “アーシャム ドロップレット”は、懐中時計、ペンダント、テーブルスタンドの3通りの使い方ができる。チタン製のケース、ラバー製のバンパー、そしてウブロの得意とするサファイアクリスタルで作られており、縦73.2mm、横52.6mm、厚さ22.5mmである。懐中時計の形は非対称なドロップレット(しずく型)であり、99%の計時装置が完全に対称であると考えると、それ自体が非常に珍しい。計時は対称的なデザインが普通なのだ!

アーシャムがデザインした2本の新しいチタンチェーンには、それぞれウブロスーパーコピー時計のダブル“ワンクリック”システムが採用されている。チェーンのリンクはサファイアケース内部につくられた泡のような構造を反映しており、まるでバブルを顕微鏡で見たような感じだ。この時計の役割はネックレスや懐中時計、またはチタンとミネラルガラスのテーブルスタンドに飾って彫刻のようにするなど、複数の方法で使用できる。もちろんチェーン、カラー、表面に刻印されたアーシャムのモノグラム、そしてアーシャムスタジオのグリーンの使用など、ダニエル・アーシャムのブランディングが時計の至る所に施されている。その存在は一目瞭然でアーシャムとのコラボ作品であることがはっきりとわかる。

このタイムピース(懐中時計? 彫刻? なんと呼べばいいのか分からない)は、約10日間のパワーリザーブを誇る手巻きCal.MECA-10を搭載。サファイアクリスタルの懐中時計に約10日のリザーブが必要かどうかは分からないが、まあ、これはウブロであり、常に長ければいいというものだ。見た目はハイテク感があるが、この時計には有機的な感覚がある。“アーシャム ドロップレット”を手に持つと滑らかで、触覚的には小さな生き物のように感じられる。撫でたり握ったりすることで、心が落ち着くのだ。

“アーシャム ドロップレット”は伝統的なスイス時計製造から大胆に逸脱している。このコラボレーションから期待されることではあるが、ここでのモットーは“破壊的革新”だ。アーシャムは(ウブロと同様に)賛否両論を巻き起こす存在であり、彼の作品はしばしば自称文化通の人々に眉をひそめさせることもある。しかしアーシャムは世界的に最も認知されている現代アーティストのひとりだ。このコンテクストで特にユニークなのは、彼の芸術が現代の物体に対する侵食の美学を通じて、朽ち果てる過程を探求することで時間の概念と関連している点である。

これは“時間との関係”についてのありきたりで大げさな話ではない。この問題についてのアーシャムの見解は聞く価値があるように思う。先週の発表会でアーシャムは、「僕の作品の多くは、過去を考えそれを未来と結びつけること。それは時間を混ぜ合わせるようなものです」と述べた。「このオブジェクトは過去のものであり、別の時代の時間の伝え方を思い起こさせますが、未来の技術のようにも感じられる。この時計は時間を伝えるだけのオブジェクトではなく、彫刻的な提案でもあるのです」と続けた。


我々の考え
世界的に有名な現代アーティストとコラボレートすることは、これまでウブロにとって成功の方程式であった。ブランドの一見した狂気には常に巧妙な方法がある。間違いなくウブロは毎朝目覚めて“今日は何か違うことができるだろうか?”と考えているだろう。これはどのスイス時計ブランドにとっても大胆な姿勢である。しかし世界的に認知されたアーティストとのコラボレーションを行うことで、普段なら注目しない消費者層にもアピールすることができる。アーティストの既存のファン層の広さを考えれば、世界限定99本の時計を売るのは難しいことではないはずだ。この種のコラボレーションは、適度に行われる限りウブロにとって常にいい影響をもたらす。

アーシャム自身も風変わりな人物である。彼はしばしば同じクリーム色またはベージュ色のユニフォームに、同じ野球帽、そして同じくオレンジがかったレンズか黒のサングラスを身につけている。有名人でありながら、謎めいた人物像を維持しているのだ。見ている側としては、ダニエル・アーシャムの効果は非常に綿密に構築されているように感じられる。彼の行動、話し方、プロダクト、そして彼がてがけるパートナーシップはすべて、非常によく考え抜かれた、収益性の高いダニエル・アーシャム スタジオのエコシステムの一部なのだ。

アーシャムが独自の視点を持っていることは疑いようはなく、その視点は多くの人々から尊敬されている。ただし彼の最大の功績は、コラボレーションの時代において実際のアート作品以上に彼の個人ブランディングとスタイルを駆使して成功を収め、利益と有名人の地位を得たことである。これと同じことが村上 隆にも言える。ウブロがこのようなコラボレーターの力を認識したのは賢明だ。ここで重要なのは、十分に識別可能な特徴を持ちつつ、それを時計という概念に変換できるアーティストを見つけること。これはプロダクトという名のポップアートなのだ。
 今日、カウンターカルチャーを牽引するアーティストの役割は、大規模な商業的取り組みと非常に巧妙なマーケティングに取って代わられた。アーシャムはアーティストだが、それ以上に彼自身が市場性の高い商品としても成功している。彼のブランドは、ウブロやティファニーのようなLVMHという巨大ブランドとコラボレーションできるほど商業的に成功しており、大衆にとって“簡単”に消費しやすく、そして興味を引き続けるのに十分な“クールさ”を持っている。たとえ“アーシャム ドロップレット”が好みでなくても、この懐中時計はウブロらしさとアーシャムらしさを兼ね備えており、どちらの側も否定できない。これはデザインの理想をそれぞれに尊重しているのだ。


ウブロ×ダニエル・アーシャムのコラボレートは、ブランドとアーシャムの双方にとって数百万ドルの利益をもたらす可能性が高い。このコラボレートを愛するか嫌うかは別として、何らかの感情を抱くことは間違いない。そしてそれこそがウブロの勝利と言えるだろう。


基本情報
ブランド: ウブロ(Hublot)
モデル名: アーシャム ドロップレット(Arsham Droplet)
型番: 916.NX.5202.NK

直径: (縦)73.2mm×(横)52.6mm
厚さ: 22.5 mm
ケース素材: シャイニー仕上げのマイクロブラスト加工&アーシャムグリーンのラバーバンパーが付いたチタン
文字盤: セミマット仕上げのアーシャムグリーン
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット:
ネックレス&ポケットチェーン/ポリッシュ仕上げのリンクが付いたチタン製・マイクロブラスト加工のシャイニー仕上げのクラスプとワンクリックチップ
テーブルスタンド/マイクロブラスト加工チタン・ポリッシュ仕上げのグリーン アーシャム スフィアとミネラルグラスルーペ

ムーブメント情報
キャリバー: HUB1201 マニュファクチュール製MECA-10
機能: 時・分、パワーリザーブインジケーター
直径: 34.8mm
厚さ: 6.8mm
パワーリザーブ: 約240時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 24

価格 & 発売時期
価格: 1205万6000円(税込)
限定: あり、世界限定99本

H.モーザーの新作、ストリームライナー・コンセプト ミニッツリピーター トゥールビヨン ブルーエナメルである。

ブレスレット一体型のステンレススティール(SS)製スポーツウォッチの需要が完全に廃れてしまったわけではないものの、過剰に評価されていた時代はもう過ぎ去ろうとしている。多くの人が求めてやまない、特定の人気モデルを思わせるデザインを持つ一部の時計は一時的に盛り上がりを見せていたようだが、その波もすぐに収束してしまった。しかしながら、H.モーザーのストリームライナーは健在だ。それどころか、時折このように期待を超えてくる製品を発表したりもする。

ストリームライナーが長きにわたって愛され続けている理由はいくつかある。そのひとつが、ほかのブレスレット一体型デザインとは一線を画していることだ。滑らかで丸みを帯びたケースシェイプ、リンクが横に真っ直ぐ伸びたブレスレット、そして(ケース同様に)年々洗練を続ける大胆な文字盤、これらすべてを組み合わせることでモーザーらしさを表現している。また、ストリームライナーはクロノグラフ、パーペチュアルカレンダー、トゥールビヨンなど素晴らしいコンプリケーションを搭載した数々のモデルのプラットフォームとしても機能しており、そのどれもがストリームライナー以外の何ものでもない一貫したデザインを有している。
今作は、ストリームライナーのケースにミニッツリピーターを格納した初めてのモデルというわけではない。モーザーとMB&Fによる“ストリームライナー・パンダモニウム”ミニッツリピーターは、延期の末に開催された今年のOnly Watchオークションにおいて30万〜40万スイスフランの想定落札価格に対し38万スイスフラン(当時のレートで約6540万円)で落札された。しかし同オークションの開催にあたっては、クリスティーズに対するサイバー攻撃、それによるオンライン入札の中止などいくつかの問題が発生していた。
H.モーザーとMB&Fによる“ストリームライナー パンダモニウム”ミニッツリピーター
MB&Fとのコラボレーションでもなく、文字盤上にDJパンダもいない新しいストリームライナー・コンセプト ミニッツリピーター トゥールビヨン ブルーエナメルは29万6000ドル(日本円で約4700万円、日本の販売価格は要問い合わせ)とやや控えめなプライスながら、(私の見識では)価格以上のパフォーマンスを見せてくれている。(この記事はバリュープロポジションではないが)近代的なミニッツリピーターでそのレンジにハマるものはちょっと思いつかない。パンダやフローティングテンプの代わりに、ワンミニッツトゥールビヨンを備えている。
昨年のストリームライナー・スモールセコンドのリニューアル時に、この文字盤を見たという人もいるかもしれない。モーザーはこれについて、同じアクアブルーのフュメを持つ“グラン・フー”エナメルに槌目模様を施したものだと説明しているものの、私の目にはさっぱり区別がつかない。最新のスモールセコンドモデルに見られるデザインは素晴らしいと思う半面、サーキュラーグレイン仕上げが施されたインダイヤルが文字盤の美しさを損なっているように見えるのはあまり好きではなかった。新作ではミニッツリピーターのハンマーとトゥールビヨンに合わせて文字盤がくり抜かれているが、ダイヤルの質感とぶつかり合っている様子もなく見た目にも美しく仕上がっている。なお、モーザーについて語るとき、フュメと琺瑯(vitreous enamel)文字盤の説明のくだりでアンオルダインが頻繁に登場する。しかしモーザーは歴史的にこれらの技法に取り組んできたブランドのひとつであり、加えてこのふたつは価格帯も大きく異なるので、文字盤の仕上げが似ているというだけで競合することはないだろう。
新作は縦・横・厚さのいずれもが約3.5mm大きくなっているにもかかわらず、驚くほど快適に着用できる。SS製のケースは直径が42.3mmで厚さが14.4mmだが、この時計に搭載された複雑機構を考慮するとさもありなんという感じだ。素材となる金属は、ミニッツリピーターにとって最適なものが選択されている。まあ、これについてはまたのちほど。針にはグロボライト®️によるインサートが施されており、暗闇でリピーターのチャイムを鳴らしたくない場合でも針で時刻を知る(時計の本来の用途のひとつだ)ことができる。
モーザーの仕上げに対するこだわりが私は大好きだ。アンスラサイトのブリッジとプレートにはモーザーのダブルストライプが施され、大手独立系ブランドの30万ドル近い価格の時計に期待される要素をすべて盛り込みつつ、精悍な印象を与えている。さらに細かく見てみると、ほかの大手ブランドがこの価格帯の時計で見落としてしまっている気配りが随所に散りばめられている。
その最たるものが歯車で、下の写真では特に2番車が強調されているが、輪列内の小さな歯車にもこだわりが及んでいるのが見て取れる。モーザーはブリッジ付近だけではなく、歯車の軸やその周りの内角にも仕上げを施している。また、ムーブメントには奥行きもあり、これはランゲのようなブランドでも高く評価されているポイントである。デッドスペースを完全に排除することはできないため、美観的に優れた手法でそれをアクセントとして生かしているのだ。
ご存じのとおりトゥールビヨンはただ複雑であることが価値となっている場合が多く、モーザーはこのリリースで精度の具体的な数値を公開していない。ときにブランドが自らの時計製造の限界を超えるべく挑戦する必要があることは理解しているし、それはこの時計に関しても同様だ。モーザーには長年にわたり、素晴らしいトゥールビヨンウォッチを作ってきた歴史がある。ただし、この時計がミニッツリピーターとしてどのような評価を受けるかは見てみたい。
さて、リピーターに話を戻そう。実機をチェックしていたとき、リピーターを何度か異なる環境で作動させてみた。時計は音を増幅する特別なディスプレイスタンドに設置されていたが、手に持ったり手首につけたりした状態で鳴らしてみたりもした。リピーターには、品質を語るうえでのふたつの主要な要素(音量と音質)がある。いずれのパターンにおいても、私がこれまで聴いたなかでもっとも大きな音量でも、もっともクリアな音量のリピーターでもなかった。素材とリピーターの構造に関する物理学的な話はもう少し調べる必要がありそうだが、音響性能に影響を与えているであろう要因がいくつか見受けられた。
音は空気分子が振動して波となって移動することで生じ、その波が通過する素材が振動することで発生する。例えばある素材はこの伝達効率がほかの素材よりも高いが、密度の低い素材ほど音をよりよく伝えると言われている。これがF.P.ジュルヌが自社のチャイムウォッチにSSを好む理由である。パテックなどほかのブランドは、ケースの内部や文字盤の設計を利用して音をよりよく増幅する“アドバンストリサーチ”プロジェクトを試みている。サファイアガラスはSSよりも密度が低いため、理論的には音をよりよく伝えるのだが、ミニッツリピーターはクローズドケースバックのほうが大きな音がすると言われている(A/Bテストをする機会はないのだが)。ダイヤル側にチャイム機構があるほかのブランド(モーザー以外)の時計だと、F.P.ジュルヌのミニッツリピーターの音を聴いたことがあるが、そちらのほうがチャイムの音が大きかった。今回のモデルだと、厚さ2.2mmのドーム型サファイア風防が音を妨げている可能性がある。
全体のパッケージを振り返ってみると、やはりなかなかに素晴らしい時計だと言える。細部をバラバラに取り上げるのではなく時計全体を見ることが大事だと考えているのだが、これが最初にストリームライナーを好きだと言った理由につながってくる。シンプルなものからとんでもない複雑機構を搭載したものまですべてを内包しつつ、ストリームライナー以外のなにものでもない優れたプラットフォームだ。同時に、細部のディテールが非常にうまく機能している。
 ケース一体型のブレスレットには、モーザーのブランドロゴが刻印された3つ折りクラスプが取り付けられている。また、2.2mm厚のサファイアクリスタルも特徴的だ。モーザーがクリスタルありとなしでそれぞれのパターンの測定値を送ってくれるのはありがたい。皮肉屋は、クリスタルなしでは時計をつけられないじゃないかと言うかもしれないが、この数値は時計が手首にどのように収まって見えるかを正確に示すものである。このようなブレスレット一体型の時計の場合、ブレスレットはかなり高い位置でケースにセットされているため、ドーム型風防はMB&Fのそれほど手首から離れているようには見えない。私の感覚からすると、非常にバランスが取れていた。
私はH.モーザーの以前からのファンだ。初めてスイスを訪れた際、最初に触れたブランドであり、技術的にも審美的にも成長し続けていることに感銘を受けた。また、複雑機構のスペシャリストであるアジェノーSAへの投資を通じて製造面でも着実に力をつけていることからも、今後もモーザーから多くのコンプリケーションが供給されることは間違いないだろう。
H.モーザー ストリームライナー・コンセプト ミニッツリピーター トゥールビヨン ブルーエナメル Ref.6905-1200。直径42.3mm、厚さ14.4mmのSS製ケース、50m防水。槌目仕上げでアクアブルーの“グラン・フー”エナメル文字盤、時針と分針にグロボライト®️のインサート。時・分表示、トゥールビヨン上にスモールセコンド、ミニッツリピーター機能搭載。ムーブメントは手巻き式のCal.HMC 905、35石、2万1600振動/時、アンスラサイト仕上げ、プレートとブリッジにモーザー・ダブルストライプ装飾、パワーリザーブ90時間。SS製ブレスレット。価格:29万6000ドル(日本円で約4700万円、日本での販売価格は要問い合わせ)。

A.ランゲ&ゾーネ ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン”はランゲで最も高価な量産モデルだ

ランゲ&ゾーネがダトグラフの25周年記念に、何か大きなことをするだろうと疑っていなかった。2024年は同ブランドにとって大きな記念の年である。ダトグラフの25周年、ブランドの再始動(およびランゲ1)の30周年、そして故ウォルター・ランゲ(Walter Lange)の100歳の誕生日...これらすべてが祝うに値する。しかし、ブランド上層部の誰かが私に“25周年は30周年より大きなもの”と言っていたように、ダトグラフは当然の選択だった。それでも、ランゲがのちにWatches & Wondersで発表する基礎となる作品(ダトグラフの25周年記念モデル)のプレビューを初めて見たときは、やはり驚いた。

Watches & Wonders 2024で発表されたふたつの新作、ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン”と、ホワイトゴールドにブルーダイヤルのダトグラフ・アップ/ダウン。

裏側から。上下逆さまでも美しく見える。
 1999年に登場したオリジナルのダトグラフは、時計界に大きな衝撃を与えた。現代技術を駆使してつくり上げられた美しく複雑なフライバッククロノグラフムーブメントと、ブランドが誇る最高の手仕上げが融合し、ほぼ完璧なものが生み出されたのである(少なくとも私の現代的な視点から見ればそうだ)。確かに少し厚くて重いが(特にプラチナの場合)、それでも私や多くの人々にとって“聖杯”であることに変わりはない。

最も古い世代から最新世代まで、4本のダトグラフ。
 その瞬間でさえ心に響いた。フィリップ・デュフォー(Philippe Dufour)氏はかつて私にこう言った。“この時計を見たとき、「これは世界最高のクロノグラフだ。スイス勢がこれを打ち負かすのを待つしかないだろう」と思った。それから25年が経ったが、まだ待っているんだ”。

昨年、彼の誕生日パーティに招待された。その場にふさわしい時計を身につけたかったため、友人が特別な時計を貸してくれた。

その日はデュフォー氏の75歳の誕生日で、彼はちょうど上記の話を私にしてくれたところだった。
 そのため今回のアニバーサリーリリースについて、ランゲが何をするのか予想がつかなかった。25周年というのは“基本的なダトグラフの水準を引き上げ、まったく新しいムーブメントを搭載した”というにふさわしいタイミングに思えた。もし私が賭けをしたならその試合にベットしていただろう。しかし彼らが実際に行ったことは、ある意味より明白で、驚異的で、信じられないような選択だった。すなわちランゲの技術すべてを駆使して、ブランド史上最も高価な量産時計をつくり上げたのである。その結果がダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン”(略してDPTルーメン)だ。世界限定50本で、価格は62万ドル(日本円で約9130万円、なお日本での定価は要問い合わせ)。まさに注目を集めるリリースである。

 以前にも話したことがあるが、私はこのような時計は価格とはまったく関係ないと考えている。値段を聞いたとき、私もほかの何人かも笑ってしまったほどだ。そして頭金(50%のデポジットが必要だと聞いている)を入金した顧客が、これを買うのによく考える必要がなかったとまで言わないが、私がチューダーを買うのと同じようにこのような時計を比較検討しているとは思えない。また、市場に同等の選択肢があるかどうかも分からない。現代においてフライバッククロノグラフを搭載した永久カレンダートゥールビヨンウォッチがほかにあるだろうか? 私は思い浮かばない。
 この時計が2年前に発売された、サーモンダイヤルのWG製DPTよりも33万2200ドル(日本円で約4890万円)高いことは触れておくべきだろう。新しいルーメンという追加機能を考慮しても、この差額は私には理解しがたい。ただしこれはまさに二者択一だと思う。言わばこの時計を買いたいか買いたくないか、またはお金があるかどうかのどちらかだ。私には手が届かないが、これらは私にとっていつも憧れの存在だった。憧れであり野心的で、多くのコレクターにとって頂点を象徴する時計である。そこで文脈を踏まえつつ、これまでに生産された(公に知られている)高価な3つのランゲを見てみよう。

A.ランゲ&ゾーネ グランド・コンプリケーション(2013年の取材内容から引用)。
 技術的にランゲの最も高価な時計として最初に思い浮かぶのは、2013年に発表されたグランド・コンプリケーションだ。この時計は発売時に驚異の260万ドル(当時の相場で約2億5370万円)で、当時パテックで最も高価だったスカイムーン・トゥールビヨンの2倍の価格であった。直径50mm、厚さ20mm以上のローズゴールドケースを持つこの時計の内部には、ムーンフェイズ付きパーペチュアルカレンダー、フライングセコンド付きのスプリットセコンドクロノグラフ、ミニッツリピーター付きグランソヌリとプチソヌリを備えた40mmのムーブメントが収められていた。ただこの時計は顧客の要望に応じて、ふたつのプロトタイプと6つのナンバリングされた個体のみが製造された。

ダイヤモンドがあしらわれたトゥールボグラフ。Photo: courtesy SJX
 次のふたつはユニークピースだ。2009年、ある顧客が小売店のデュベイユ(Dubail)でトゥールボグラフ “プール・ル・メリット”を購入した。その時計はダイヤモンドケース&ブレスレットに201個のバゲットダイヤモンドがセットされており、価格は120万ユーロ(当時の相場で約1億5630万円)だった(SJXには写真もある)。そして2018年にはスティール製のA.ランゲ&ゾーネ 1815 “ウォルター・ランゲへのオマージュ”がオークションにかけられ、85万2525ドル(当時の相場で約9410万円)で落札された。また80万ドル(日本円で約1億1780万円)を超える価格で取引されたとされる、宝石がセットされたダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨンのユニークピースの存在も噂されている。

 新しいダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン”は、モダンで洗練された美しさと、複雑さを増したダイヤル、そしてほかのふたつのムーブメントの長所を備えるなど、多くの点で現代のランゲに近い。新しいリリースでは、ユニークピースではなく何が得られるのか? 先に述べたように、ランゲは基本的にすべての工夫を詰め込んだ。まず、少なくとも日中であれば最も明白なふたつのポイントから始めよう。

新しい王者(少なくとも複数の人にとって)。
 通常、ケース素材は全体のストーリーのなかでもひとこと触れる程度であるが、ランゲ独自のハニーゴールド®となれば主役級だ。これはピンクからホワイトへと変化する合金で、2010年に登場した“165周年記念―F. A.ランゲへのオマージュ”記念エディションにまでさかのぼる、極めて特別なケースにのみ使用されてきた。そのときはトゥールボグラフ “プール・ル・メリット”、ランゲ1・トゥールビヨン、1815ムーンフェイズが登場した。さらに2011年、ブランドはリヒャルト・ランゲ・トゥールビヨン “プール・ル・メリット” ハンドヴェルクスクンストをこの金属で発表している。ほかにもいくつか例があるが、最近だと2021年のツァイトヴェルク “ルーメン”の素材としても採用された。それまで“ルーメン”モデルはプラチナでのみ製造されていた。それも十分に素晴らしかったが、ランゲの世界ではハニーゴールド®ほど特別な存在ではない。

 写真で見ると、この素材はさまざまな色合いを帯びていることが分かる。ある撮影環境では、時計が暖色系の表面に置かれ、その色を拾っていた。寒色系の素材、例えば青い表面では一部がほとんど白に近い色に変わる。ケースの直径は41.5mmで、厚さは14.5mm。これはダトグラフ・アップ/ダウンよりも1.4mm厚いが、内部のムーブメントがはるかに複雑であることを考えると、実に驚くべきことである。

 ムーブメントについて話す前にケースについて最後に注記をしておく。DPTのケースには、シースルーバックに向かって上向きの傾斜がついたフランジがある。そうすることで視覚的に時計が少しスリムに見え、手首に装着したときにはミドルケースが少し高くなるため、時計のバランスがよくなるようだ。
 “ルーメン”でなければムーブメントが主役になっていただろう。ランゲに称賛を送りたいのは、このDPT(ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン)のために新しい手巻きムーブメントCal.L952.4を開発したことだ。このムーブメントは約50時間のパワーリザーブを持ち、ほかの現行DPTモデルに搭載されているL952.2とは異なる。この新ムーブメントはフライバッククロノグラフ、12時位置のアウトサイズデイト表示、パーペチュアルカレンダー、そしてトゥールビヨンといったほとんどの機能を維持しながらパワーリザーブインジケーターを省いたため、部品点数を45点減らした。これにより混雑しがちだった夜光ディスプレイがシンプルになった。

 これらの変更は、単に輪列からパワーリザーブ部分を取り除くだけではない。ムーブメントは、見た目では分かりにくいかもしれないが、大幅につくり直されている。さらにサファイアダイヤルを支えるために必要な部品も追加されている。ただランゲに期待できる最高のものであることに変わりはない。このようなムーブメント、このサイズで厳密な精度を持つものは、現代の技術的支援なしでは思い描くことは不可能だろうが、その結果として生まれるブリッジとレバーの集合体は、私が時計に夢見る奥行きを生み出す。私はランゲのクロノグラフを見るたびにムーブメント側を上にして目の高さに傾けている。すると時計が10フィート(約3m)ほどの厚みがあるかのように感じられるのだ。この体験はトリプルスプリットほどではないが、それでも素晴らしい。

 さらに細かく見てみると、この時計にはブランドによる手仕上げが随所に施されている。技術的には57もの石が使われているが、そのうちのひとつはトゥールビヨンの軸を支えるダイヤモンドエンドストーンである。ムーブメントは、ジャーマンシルバーが時間とともに醸し出すパティーナのような風合いはないが、白っぽくもないため独特の味わいがある。トゥールビヨンの追加により複雑さが増す一方で、ムーブメントに視覚的な奥行きを与えていた部分が少し取り除かれた。とはいえ非常に見応えがあることに変わりはない。

 さて、みんなが待ち望んでいた瞬間(あるいは機能)、つまり夜光ショーの時間だ。正直なところ、これはほとんどの非購入者が興奮する部分だろう(もちろんオーナーも同様に楽しんでいるに違いないが)。スモークサファイアダイヤルをとおして、ランゲはダイヤル上およびダイヤル下にたっぷりと施した夜光を披露している。

 “ルーメン”シリーズの背景について少し紹介しよう。A.ランゲ&ゾーネのプロダクト開発ディレクター、アンソニー・デ・ハス(Anthony de Haas)氏によると、このアイデアは彼がルミノバのないツァイトヴェルクで時間を読み取るのに苦労していた夜に生まれた。手短に言えば、その結果が2010年のツァイトヴェルク “ルミナス”だった。それから3年後、グランド・ランゲ1で初めて“ルーメン”という名前が登場する。その後2016年にグランド・ランゲ1・ムーンフェイズ、2018年にダトグラフ・アップ/ダウンがルーメンシリーズに加わる。直近だとハニーゴールド®製ツァイトヴェルク “ルーメン”が登場した。これが新しいハニーゴールド “ルーメン”の新時代を示すものなのか、という疑問が湧く。

 アウタートラックは、フライバッククロノグラフのDPTと同じ1000mまでのタキメータースケールを備えており、今回は白い文字の下にルミノバが塗布されている。12時位置にはアウトサイズデイト表示がダイヤルの開口部をとおしてはっきりと見える(インデックスに合わせてハニーゴールド®で囲まれている)。ほかの数字も見えるが、サファイアによって拡散されるために邪魔にならない。針にはルミノバのインサートもあり、クロノグラフ針全体も夜光塗料が塗布されている。

 2018年のダトグラフ・アップ/ダウン “ルーメン”と比べて、読みづらく感じることはないが、なぜか日付表示が目立つように感じる。必要な情報はひと目で見えるようになっており、よく見るとDPTが提供するそのほかの情報も容易に確認できる。

 インダイヤルの8時位置にスモールセコンド、曜日、デイナイト表示があり、4時位置にはクロノグラフの積算計、月、うるう年を表示。これらの情報をコンパクトかつ効率的に表示しており、重要度の高い情報ほど大きく、そうでないものほど小さく表示されるよう整理されている。また夜光塗料が塗布されたムーンフェイズも忘れてはならない。

 全面夜光の機能も素晴らしいが、私が特に気に入っているのはこの時計が透明でありながら、光に照らされても非常に視認性が高いことだ。スケルトンまたはセミスケルトンのダイヤルを持つ多くのブランドはこれをうまく実現できていないが、ここでは見事に成功しており、最近のパテック 5316/50P-001にも少なからず影響を与えているようだ。これには正当な理由がある。青みがかったスモークサファイアがクリーミーホワイトのインダイヤルやほかのアクセントと対比して、セミスケルトンウォッチのなかでも最も魅力的で視認性の高いモデルのひとつとなっているのだ。


 ときに“ランゲのムーブメントは美しすぎて、できることなら時計を逆さまにして身につけたい”と言う人がいる。“ルーメン”はその体験を少し味わえる。それ以外の着用感については、本当に重要だろうか。50mmのグランド・コンプリケーションよりもはるかにつけやすいのは確かだ。複雑なムーブメントとゴールド製ケースにより重量はあるが、それでも驚くほどつけやすい時計である。
 しかし価格と同様、それは本質的な問題ではない。これはランゲの歴史における重要な瞬間をカタログにある最高の時計のひとつで祝い、そして顧客に提供するというブランドが最も得意とすることをしているのだ。もしあなたがコレクターで、手首に巻かれたこの時計を見下ろしているのなら、サイズや重さ、価格はすべて頭の片隅にもないだろう。

時計収集の世界ではよく“レア”という言葉が使われる。

ロレックス オイスター パーペチュアル Ref.1002 ブレゲ数字のインデックス付き 1976年製

ロレックス オイスター パーペチュアルのRef.1002自体はそれほどレアな時計ではない。しかしこの文字盤を持つとなると話は別である。正確にいうと、この文字盤を持つ個体は市場に3本しか確認されていない。今年5月、ジュネーブオークションに訪れた際、その3本のうちのひとつを初めて目にした私は驚愕した。これはまさにロレックスマニアにとって夢のような時計である。アプライドのインデックスが大きく印刷されたブレゲ数字に変わるだけで、“スタンダード”なオイスターが本当に高いレベルへと引き上げられているのだ。
これらの時計はすべて比較的直近で市場に登場しており、それに関する研究も進んでいる。3本すべてにおいて、文字盤の裏側に当時のロレックスの文字盤サプライヤーであるバイエラー(Beyeler)社の署名が同じように入っていることで、これらが同じ、恐らくは少量のロットに属し、同時期に製造されたという説が立てられている。このケースは1976年にさかのぼるが、これは現在までに確認されているなかで最も古いものであり、ほかのふたつはその数年後に製造されたものである。

ブレゲ数字は希少性を演出するだけでなく、時計全体の外観にも大きな影響を与えている。5月に見たときに驚いたのは、単に今まで見たことのないヴィンテージロレックスであったというだけではない。もちろんそれも一因ではあった。しかしそれ以上にデザインがどれほど優れているか、そしてシンプルなオイスター パーペチュアルがどれほど魅力的かというのも大きかった。私のお気に入りのパテックにもブレゲ数字が使われていることがあるが、これらの希少なオイスター パーペチュアルにはそれ以上に引かれる何かがある。なぜならこのスタイルは“ロレックスらしくない”としか言いようのない独特なものだからである。
売り手であるコレクターズコーナーNY(Collectors Corner NY)のウェスが、この3本のうちのひとつのロレックスを2万9900ドル(日本円で約420万円)で提供している。こちらでチェックしてみて欲しい。
カルティエ ロンドン デカゴン 1960年代製

上記ロレックス オイスター パーペチュアルと同様の数しか確認されていない時計として、オークランドの小さなオークションハウスで出品されていたカルティエ ロンドンのデカゴンも今週のセレクションに加えよう。正直に言って驚いた。実際のところ偽物だと思っていた。しかし念のため出品者であるクラーズ・オークション(Clars Auction)に連絡し、ムーブメントとケースバック内側の写真を依頼したところ、本物であることが判明した。
このようなカルティエ ロンドンの時計が販売される場合、HODINKEEではそれだけで記事が1本できてもおかしくない。特にこの時代に作られたロンドン製の時計の魅力は何度も語られており、市場でもその評価が裏付けられてきたが、それでも改めて強調する価値がある。カルティエ ロンドンの時計はひとつひとつハンドメイドされたものだが、1960年代の技術と知識を背景にしているという点で1910年代初期のカルティエウォッチに近しい趣を期待することができる……、そして単純に身につけやすい。カルティエ ロンドンはオリジナルのクラッシュ、ペブル、マキシ オーバルだけではなく、1960年代からはほかにもカルティエらしい美学を体現しながらも奇抜な形状の時計が登場している。デカゴンもそのひとつだ。

最後にオークションで見たデカゴンは、2021年10月にモナコ レジェンズ グループ(Monaco Legends Group)で行われたオークションで最低落札価格を大幅に上回り、最終的に5万5900ユーロ(当時のレートで約600万円)で落札された。私は運よくジャスティン・グルーエンバーグ(Justin Gruenberg)氏の店、キーストーンを訪れた際に2本のデカゴンを目にすることができたが、このモデルが本当に特別であることは確認済みだ。実際にはやや不格好にも見えるが、マライカ・クロフォードが言うように“不恰好な美しさ”を有しているのである。
入札者への注意点:すでに気づいているかもしれないが、今回のクラーズのデカゴンには後年カルティエのサービス用ダイヤルが装着されたようだ。これは時計の価値に影響するが、その希少性を損なうわけではない。入札の際は、その点を考慮するように。
このカルティエ ロンドン デカゴンは、クラーズ・オークションのExquisite Diamonds & Watches Auction(極上のダイヤモンドと時計のオークション)のロット5115として出品されている。想定落札価格は5000~7000ドル(日本円で約70万〜100万円)である。
ユニバーサル・ジュネーブ “ポーラー”ルーター Ref.20217-3 1950年代製

ユニバーサル・ジュネーブ ポールルーターは、HODINKEEのヴィンテージウォッチ体験において中核をなす時計である。 単に所有して身につけるのが楽しい時計というだけでなく、このモデルには非常に興味深い歴史があり、時計業界、特にHODINKEEの記事で詳しく取り上げられている。ポールルーターに関する本も存在する! この時計に関する要点を簡単にまとめると、ポールルーター、そして今回紹介する“ポーラー”ルーターはSAS(スカンジナビア航空システム)とユニバーサル・ジュネーブが関わったプロジェクトの結果として誕生したものだ。1954年、SASが初めてコペンハーゲンからロサンゼルスまで北極上空を通過して直行便を運航した。この出来事は2024年の現在に読むと大したことないように思えるが、当時は非常に重要な出来事だった。いずれにせよSASはこのフライトを記念してユニバーサル・ジュネーブに時計の製作を依頼し、ブランドは当時23歳のジェラルド・ジェンタと契約、こうして“極地飛行”を記念したポーラールーターが誕生したのである。
 ポーラールーターのスペルは長続きしなかった。なお誤字ではないので注意してほしい…、この記事でも間違えないよう非常に気をつけて書いている。約1年後の1955年にはポーラールーターはポールルーターとなった。総じてポーラールーターの名前を冠した時計は約300本製造され、そのうち半数は文字盤にSASのロゴが入っている。

今回紹介するモデルは、商業用に製造された170本のポーラールーターのうちのひとつである。約1000種類のリファレンスが存在するポールルーターの世界において、170本というのは非常に希少である。私自身、5年間にわたって黒文字盤のポーラールーターを探してきたが、売りに出されたのは2〜3本程度しか見たことがない。
このモデルはシルバーの文字盤であり、私が探していたものとは少し違うが、状態は素晴らしく全体的な風合いも魅力的だ。唯一の“欠点”は売り手が指摘しているとおり、交換されたリューズである。
イギリス、ビバリーのWaecce Watchesがこのポーラールーターを4686ドル(日本円で約66万円)で販売している。詳細はこちらから確認可能だ。
ギュベリン バゲットダイヤモンドのカーディナルインデックス付きドレスウォッチ 1950年代製

私はギュベリンの時計には特別な愛着があり、eBayの検索結果を保存している。ギュベリンは長年、パテック フィリップの小売業者として知られているが、パテックだけを扱ってきたわけではない。ルツェルンに拠点を置くこの宝飾店は独自のホワイトラベル(OEM)製品も手配しており、それらには単に“Gubelin”とだけ署名されている。これらの時計のクオリティには多少ばらつきがあるものの、最高級のものはオーデマ ピゲによって製造されており、下位モデルでもエテルナなどのブランドが手がけている。
今回紹介する時計は、ヴィンテージ時代のギュベリンのホワイトラベルの品質を示す素晴らしい例である。私はこの時計が1954年に行われたこの宝飾店の100周年記念のタイミングで製造されたものだと考えている。この節目を祝うためにギュベリンはオーデマ ピゲに依頼し、ジュビリーシリーズとして知られる200本の時計を製造させた。eBayの売り手にムーブメントの写真を依頼したが、このギュベリンはおそらくAPによって製造されたものではないだろう。しかし文字盤やケースの質感は非常に似ており、この時計はギュベリンが扱うAPの時計に似た外観を持ちながら、少し手ごろな価格帯で提供された代替品だったのではないかと推測している。

製造元は不明だが、この時計が希少であることは確かだ。ブランドとして高く評価されているギュベリンの署名があり、バゲットダイヤモンドのカーディナルインデックス(12、3、6、9時位置)がセットされたドレスウォッチは、特にホワイトゴールド(WG)製のものはそう頻繁に出回るものではない。マライカの記事にある1950年代の同時代のモデルを見ればわかるが、パテックにとって希少なディテールであったなら、その時代のほかの時計ブランドにとっても同様に希少だったのである。
 eBayでセントルイス在住の売り手がこのギュベリンをオークションに出品しており、終了は9月16日(月)の午前10時30分(日本標準時)である。この記事を執筆した時点で入札額は830ドル(日本円で約11万7000円)となっていた。
ユニバーサル・ジュネーブ Ref.20105 1949年代製

最後に紹介するのは、小振りなユニバーサル・ジュネーブである。そのとおり直径は30mmで、ケースはフランソワ・ボーゲル(François Borgel)製だ。私のFB製ケースに対する愛は尽きることがなく次々と発掘しているが、今回の時計は私にとって新たな発見であった。これまでにFB製ケースを使用したユニバーサルはあまり見つけられず、ざっと調べてもこの特定のリファレンスのほかの個体を見つけることはできなかった。正直なところこれは少し謎が多い時計だが、非常に希少なものだと考えている。私の目にはこの時計の真正性に関して何も問題や異常が見られないが、必要ならコメント欄で誰かが指摘してくれることを願っている。

オリスがダイバーズ 65を“ダイバーズ デイト”へ刷新

オリスは、同社の代表的かつコアなリリースのひとつであるダイバーズ 65の60周年を迎えようとしている。そこでいくつかの微妙なアップデートを施し、オリス ダイバーズ デイトとしてリブランディングを行っている。ダイバーズ 65を知っているなら、新しいモデルにもすぐになじむだろう。

 新しいオリス ダイバーズ デイトはクラシックなスティール製のダイバーズウォッチで、ダイヤルカラーはブルー、ブラック、ベージュの3色が用意されており、6時位置に日付が配置され、インデックスと針にはスーパールミノバが塗布されている。ケースサイズは39mm、厚さ12.1mmで、ラグからラグまでの長さは46.5mmだ。さらに、わずかにドーム型のサファイア風防が採用されており、ダイヤルに対して立体的な効果をもたらしている(下の写真で確認できる)。インデックスには面取りが施されているが、これこそさりげなく手を加えた点のひとつだ。またレトロな雰囲気を維持するために、やや幅を詰めた新しいダイバーズコレクション専用のフォントが開発された。

 ケース形状もわずかに変更されており、時計はよりコンパクトになった。さらに防水性能は以前の100mから200mに向上し、ケースは若干重くより頑丈になっている。またヴィンテージの雰囲気を醸すフェイクリベット付きブレスレットも特徴的だ。加えてさりげない変更ではあるが、ベゼルがマット仕上げのセラミック製になっている点にも注目だ。

 内部にはセリタをベースとした、オリスのCal.733を搭載。約41時間のパワーリザーブと自動巻き機能を備えている。信じられない? 今ではシースルーケースバックが採用されているため、自分の目で確かめることができる。さらに付属のブレスレットやラバーストラップにはクイックリリースシステムが採用されているため、ムーブメントの撮影も非常に簡単だった。



 さまざまな調整と改良が加えられているものの、Cal.733ムーブメントを搭載した新しいダイバーズ デイトは手ごろな価格を維持している。価格は41万8000円(税込)で、非常に魅力的な価格帯だ。なおすでに発売されている本作は限定モデルではない。


我々の考え
今回のアップデートは控えめではあるものの非常に魅力的だ。防水性能の向上、より優れたベゼル素材、そして快適なケースシェイプ。これ以上何を求めるだろうか?


 ひとつ気づいたのは、ブラックダイヤルがあまり黒く感じられなかったことだ。立体的な風防のおかげでさまざまな光が入り込み、まるでブルーダイヤルの端が明るくなる逆フュメのような効果を生み出していた。このダイヤルカラーは個人的には気に入っており、人気が出そうだとも思う。しかしもっと際立ったブラックダイヤルを期待している人には、このような効果はマイナスに感じられるかもしれない。


 ベージュダイヤルはとても印象的で、おそらくこの3本のなかでは一番好きなカラーだ。ホワイトのデイト表示は見た目として完璧ではないものの、ブルーダイヤルほど強調されてはいない。またホワイトダイヤルのダイバーズウォッチはもっと増えてもいいとも思う。ブラックダイヤルが多すぎる現状に対するひとつの対策かもしれないし、ベージュはホワイトのよい代替案となるだろう。またクイックチェンジシステムも大きな魅力だ。ムーブメントは毎日見るほど特別なものではないかもしれないが、このクイックリリースのおかげでムーブメントを簡単に確認したり、レザーストラップへの交換が容易にできるのはうれしい点だ。



 よいものがあるとき、必要なのは少しの調整で大きく改善することだ。Cal.400ムーブメントを使った新たな展開が始まるのか、個人的には気になるところだが、手ごろなエントリーモデルとしてはこれは非常にいいスタートだ。

基本情報
ブランド: オリス(Oris)
モデル名: ダイバーズ デイト(Divers Date)
型番: 01 733 7795 4054-Set(ブラック)、01 733 7795 4055-Set(ブルー)、01 733 7795 4051-Set(ベージュ)

直径: 39mm
厚さ: 12.1mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ブラック、ブルー、ベージュ
インデックス: アプライド
夜光: あり、スーパールミノバ
防水性能: 200m
ストラップ/ブレスレット: フォールディングクラスプとクイックストラップチェンジシステムを備えたマルチピースステンレススティールブレスレット


ムーブメント情報
キャリバー: 733-1
機能: 時・分表示、センターセコンド、日付表示、ファインタイムチューニング、ストップセコンド
直径: 25.6mm
パワーリザーブ: 約41時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時

時間を告げるというのは単純明快な機能であり、時計にとって最高の基本的役割で、

時計は人々が現実世界で生きる手助けをし、待ち合わせの相手と約束した時間に現れることをサポートするという非常に重要な機能に長けている必要がある。
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 私がおもしろい時計を好きになることはあるかもしれないが、愛せるかどうかはわからない。
 この辛辣でユーモアのない宣言について、私はいつでも撤回できる権利を持っており(実際撤回することになると確信している)、それはアシンメトリーの時計も大いに含まれる。ヴァシュロン・コンスタンタンのヒストリーク・アメリカン 1921は好きではない。バケットハットを少し斜めにかぶったナンパ師を連想させ、背筋を伸ばして帽子を直すように怒鳴るか、あるいは帽子を捨ててしまえばいいとさえ思う。カルティエのクラッシュはませた13歳の子どもが考えた独創的な時計のようだ。とはいえ、もし私が大金持ちになることがあれば、その時計を猛烈に欲しがっている友人トムのためにためらうことなく何本か調達するだろう。彼の魂に神の慈悲があることを祈る。ハミルトンのベンチュラはほぼ許容範囲だが、なぜ普通のハミルトンにしないのか。そちらのほうがずっとよい。
 少し前のある日、HODINKEEの時計リストに目をとおしながら、お偉いさんを説得して試させてもらえそうなものを考えていたとき、私の欲にまみれた目が上記のカテゴリーに入る時計、つまりおもしろい時計に止まったので驚いた。確かに、フォレストグリーンの文字盤を持つグラスヒュッテ・オリジナルのパノマティックルナは、きわめて斬新と言えるものではないし、ウルベルクのような時計でもない。40mmのケース自体は落ち着きのある正しいラウンドで、12時位置は真北を指していたが、それを除けばこの時計は間違いなくカオスと戯れていた。

なぜすべてが横にずれているのだろう? 真ん中の何が悪いのか。
 時・分表示、いわば論旨の中心はオフセンターにあり、メインの時刻表示の下部にはスモールセコンドのインダイヤルが重なっている。特大サイズの日付窓は、この大混乱が起きていなければ4時があったであろう位置にある。ムーンフェイズに関しては比較的クラシックな三日月型の開口部で、通常は2時と3時があるはずの場所のあいだに位置している。
 グリーンは今、流行の文字盤のカラーであろう。“グリーンウォッチ”とGoogleで検索すれば、たくさんの素敵な時計がアピールしてくる。たとえば、ブライトリングのクールなピスタチオ(“マンザニータ”とするほうがより的確だと思うが、誰も私に相談してきていない)グリーンのプレミエ ヘリテージや、オレンジとハンターグリーンの組み合わせで、ウェス・アンダーソン(Wes Anderson)氏の映画や歴史の授業で目にしそうな雰囲気を持つシャイノラ ランウェル オートマティックなどである。このグラスヒュッテによく似たグリーンのIWCもあるが、もちろん私は実物を見たことがないので、このグラスヒュッテのグリーンが際立っていると感じるのは個人的見解だ。それでも言及しておきたい。
 これはホビットのような夢のグリーンであり、ウェールズで行われる春の洗礼式のグリーンであり、文句を言わずにホイール・オブ・フォーチュン(Wheel of Fortune)を見ていられるように、おばあちゃんがバニラアイスクリームにかけてくれたクリーム・デ・メント(ミント味)のグリーンである。

雨上がりのニュージーランド上空を飛んでいるかのよう。
 この時計を入手した。発泡スチロールのセキュリティが何重にも施されて、この時計は届いた。そして宣伝どおり、とてつもなくグリーンだった。私は時計をつけてみた。いや、つけようとした。私は小柄な女性ではないが、手首は細い。この時計のストラップは手首が細い人向けにつくられていなかった。ストラップの両側のラグから1.5インチ(約3.8cm)はまるで死後硬直しているかのような硬さであった。また関係はないが、“実際に身につける”という点では、デプロワイヤントクラスプが満足にカチッとならず、まったく閉まらないのである。
 “私のせいか、それともお前か”という瞬間は多くの買い物で経験するものだが、私はその最中にいた。しかし高級品となると、いつも“この場に存在する低俗なやつは私ひとりだけだから、きっと私のせいだ”という気持ちが湧いてくるせいで、さらに気恥ずかしいものとなる。“この小さなピンは穴にはまるようになっているのですか?”と、この時計の販売店に問い合わせると、担当者はそうだと答えた。この厄介なクラスプを懸命に押し、埒があかないとき、私はどれも私のせいではないことに気づき、気にしすぎるのをやめた。つまり、もし本当にこの時計が欲しくて、とてもクールな時計に思えたのなら、きっと誰かがこれを解明できるはずだ。だが念のために言っておくと、デプロワイヤントクラスプはとてつもなくばかげたもので、誰であれ、これを発明した人はサディストである。普通の時計ストラップのどこが悪いのか、何でもかんでもより不便なものに変える必要があるのかと筆者は嘆いた。
 とはいえ1度装着してしまえば、大きく、硬く、重くはあるものの、この時計は多少なりとも私の手首になじんだ。ブラウンのストラップはこのグリーンカラーにぴったりで、木の葉と樹皮のごとく自然かつ間違いない組み合わせである。
 実際に見てみると、アシンメトリーとこのグリーンの色味だけがこの時計の派手な要素であることがわかり、うれしくなった。この時計はほかのすべてのディテールが控えめなものであるため、上品さを保っている。ケースのサテン仕上げのステンレススティール製サイドや、ポリッシュ仕上げでしっかりとしたラグ、そしてシンプルなスティックインデックスが生み出す落ち着いたコントラストが気に入った。これらの要素は、私にとって理想的で、魅力的に感じられた。
 針の先が尖っていて、ムーンフェイズと同じ色の白いエナメルが少しはめ込まれていることに気づくまで、使い始めてから1週間以上かかった。気づいてからは大いに気に入っている。
 40mmのこの時計は女性向けというよりは男性向けの時計かもしれないが、私が好きなタイプの男っぽさである。少し男性的で美しいスタイルが私の唯一の好みというわけではないが、私のなかで主流となっている美的感覚だ。たとえばチェルシーブーツ、シャネルのメンズコロン、ボデガグラスの冷えたバルベーラが好きだ。この時計はそれらすべてが私に合うのと同じように私にマッチした。

腕時計とプラスチックカップの白ワインを満喫する私...冷えたバルベーラではない。
 ロレックスの時計を持っている人は、自分の手首を見下ろし、その非常に象徴的なロレックスの文字を読むときの感覚はほかにないものだと言う。私にはそれを疑う理由はない。しかしグラスヒュッテの物語にどっぷり浸かったあとでは、グリーンのグラデーション文字盤に無造作なHが入った白い文字を見下ろし、このブランド独自の素晴らしい系譜を思い浮かべて胸が膨らむのは、非常にワクワクする感覚だったと言わざるを得ない。
 “グラスヒュッテへの道は長く、曲がりくねっていて、美しい”と、HODINKEEのニコラス・マヌーソスは、2015年のグラスヒュッテの歴史について深く掘り下げた記事で書いている。ここでは簡単に紹介しよう。1800年代半ばからドレスデン近郊のオア・バレーのような場所で時計や時計部品がつくられており、A.ランゲ&ゾーネのフェルディナント・アドルフ・ランゲ(Ferdinand Adolph Lange)がそのパイオニアだった。グラスヒュッテの時計は非常によくできていて人気があったためコピーされるようになり、それがグラスヒュッテ・オリジナルというブランド名につながったのである。第2次世界大戦後、グラスヒュッテ(町)は東ドイツ(GDR、ドイツ民主共和国)に編入され、4つの主要な時計会社がVEBグラスヒュッテ・ウーレンベトリーベ(GUB)に合併された。GUBは、非常に正確で非常に薄いムーブメントを作ることで定評があった。外界から隔絶された会社であったため、すべての部品を自社でつくらなければならなかったのだ。こだわりでそうしていたのではなく、そうせざるを得なかったのである。GDRが再びドイツとなったとき、グラスヒュッテ・オリジナルはGUBを継承し、その伝統は今も続いている。
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 さて、私はチュートン式ムーブメント(ドイツの高級時計ブランドによる堅牢で精度の高いムーブメント)がほかのものより優れている点について詳しく知っているわけではないが、自分が自社製のものに引かれることは認識している。私はケーキミックスでケーキをつくったり、マルガリータミックスを使ったりはしないし、もしアート作品を買うとしたら、コストコで買う前に10歳の子どもから買うだろう。ETAムーブメントには独自の存在意義があるとは思うが、私には少し“悲しいトロンボーン”のように見える。
 私はこの時計のスケルトンになっている、オフセンターのローターの存在に気づいた(ある記事でその存在を知った)。このローターは、オフセンターの文字盤と一致している。この緩急針は2羽の白鳥の首に似ていると言われている。正直に言うと、シンメトリーが取り入れられると、アシンメトリーがより魅力的に感じられる。確かに白鳥の首のようなものが見え、悲しいトロンボーンとは正反対の印象だ。

スワンネック緩急針。
 このパノマティックルナ(英名はPanoMaticLunar。編集者はきちんと表記チェックをしたのだろうか?)は2020年に発売されたもので、このモデルで新しくなっているのは色だけである。2003年に発表されて以来、時計の中身はほとんど変わっていない。パノシリーズの最初の時計は、2001年に発表されたパノレトログラフ(英名はPanoRetroGraph。同じコピーライターによる表記であるのは明らかだ)で、アラーム付きの30秒フライホイールを備えていた。私は(そしておそらく多くの人も)自分の人生全体を30分間隔で区切ることができると感じているので、このようなものは本当に便利だと感じる。それがあればこの時計はもっとクールになっていたはずだが、今のモデルがクールでないとは言っていない。
 私はムーンフェイズ付きの時計を所有したことがなかった。触ったことさえなかったかもしれない。この時計のムーンフェイズは、鉛筆のような柔らかいプッシャーで調整するもので、十分にシンプルに見えた。現在の月の満ち欠けの状態(欠けていく三日月)を調べるだけでよいと思い、23回も押さなければならなかった。おそらく現在の月の満ち欠け具合を正確に時計と合わせる方法があるはずで、のちほど試みる予定であるが、それはニックと昇給について話をしたあとにするつもりだ。
 この時計はとても分厚く感じた。あまりの分厚さに調べてみたところ、12.7mmあることがわかった。文字盤も巨大に見えた。しかしこの時計にはベゼルがほとんど存在しないため、その大きさの一部は目の錯覚であることに気づく。薄皮のピザが厚皮のものより大きく見えることがあるのと同じようなことだ。この時計はすべてにおいて非常に均整が取れている。ただしとても大きいため、これをつけたまま何杯もお酒を飲んで議論をしながらドアをとおり抜けようとするのはおすすめしない。ほぼ毎日そのようなことが起きていたにもかかわらず、この時計は我が家では無事であった。
 おそらく、この時計の最もマイナスな点は、ランゲ1に似すぎていると主張する不平家がいるかもしれないことだろう。しかしそれが欠点になるのは、そのような批判が問題になる場合だけである。私にとってはあまり問題ではなかった。少なくとも、私はそうは思わなかったのだ。
 その後、ジュネーブの店でランゲ1をいくつか見てみた。ランゲ1・ムーンフェイズは動揺するほど素晴らしい。しかし、ランゲの4万8400ドル(掲載当時の価格。現在はピンクゴールド製で税込748万円)という価格は、たとえるなら私の体から血を抜くだけに飽き足らず、引きずって四つ裂きにし、海に置き去りにしてサメの餌にするようなものだ。だから、アシンメトリーでありながらクラシカルで素敵な時計が欲しいなら、これに違いない。それもグリーンでなくてはならない。ランゲはグリーンのモデルをつくっていないからだ。もしランゲがグリーンをつくったとしたら、きっと素晴らしいものになるだろう。たとえネオンピンクで作ったとしても、グラスヒュッテ・オリジナルのパノマティックルナより素敵なものになるかもしれない。
 しかし価格が4倍するだけの価値があるだろうか? 私はそうは思わない。このグリーンのグラデーション文字盤はかなり魅力的だ。昼下がりのさまざまな色合いの松林を見渡した様子を思い起こさせる。サビンマツの長い針が日光を反射する部分では明るく輝くグリーンになり、杉が日光を吸収する場所ではほとんど黒に近い濃いグリーンに見える。心地よく、前向きで、自由な気分にさせてくれる色なのだ。

リシャール・ミルからRM 032 アルティメット エディションが新登場

リシャール・ミルのRM 032 オートマティック フライバッククロノグラフ アルティメット エディションは、RM 032シリーズの最終章を飾るモデルである。このモデルは圧倒的な存在感を備えたテクニカルなダイバーズウォッチだ。ケースサイズは50mm(50!)×17.8mmと堂々たるもので、グレード5チタンとカーボンTPT®を組み合わせることで、頑丈ながらも軽量な構造を実現している。“本格的な水中利用”を念頭に設計されたRM 032は300mの防水性能を備えており、逆回転防止ベゼルは8ポイントスター型のネジでしっかりと固定されている。

 本作にはCal.RMAC2を搭載し、フライバッククロノグラフ、オーバーサイズの日付表示、月表示といった多彩な機能を備えている。3時位置にはランニングインジケーターが配置されており、回転するスーパールミノバディスクを採用することで低照度の環境でも視認性を確保している。ムーブメントには可変慣性モーメントローターと二重香箱システムが組み込まれ、約50時間のパワーリザーブを実現。また特筆すべき特徴として、特許取得済みのロッキングリューズ機構があり、これは水中での誤操作を防止する。この機構ではリューズのリングを回転させることでプッシャーとリューズをロックし、ダイビング中の安全性を向上させている。

 2011年のデビュー以来、RM 032シリーズはリシャール・ミルが水中探検の世界へと誘うモデルとして位置づけられてきた。最新モデルもその伝統を受け継ぎ、フリーダイビングのチャンピオンであり8度の世界記録を打ち立てたアルノー・ジェラルド(Arnaud Jerald)氏の手首でその存在感を発揮している。彼の記録的なダイビングでもこの時計が使用されている。

 “アルティメット エディション”と名付けられたこの堂々たるRM 032は、わずか80本限定での販売となる。またその価格も堂々たる値段(21万スイスフラン、日本円で約3560万円)に設定されている。

我々の考え
2018年、コメント欄常連のBSideがRM 032の過去モデルを“ダイバーズウォッチ界のハマー”と評したことがあった。まさに的を射た表現だと感じる。さらに言えばこのRM 032は巨大すぎて、もはやグロテスクな域に達しているともいえる。思い出されるのは、2004年のリュダクリス(Ludacris)氏の”Get Back”のミュージックビデオだ。彼のコミカルに誇張された巨大な腕と時計がこの時計の存在感と重なる(巨大な腕と時計はぜひこちらで確認して欲しい)。今年発表されたイエローゴールドのロレックス ディープシー(参考までに、サイズは44mm×17.7mm)ですら、このRM 032の横では細身に見えてしまうほどだ。
 2000年代初期の大きくて派手な時計が大好きだということは、念のために改めて伝えておく。この手の時計こそが私の好みだ。たとえば初期のビッグ・バンやオフショア、5タイムゾーンなどはまったくもって素晴らしい。ただし美的感覚で言えば、このRM 032はリシャール・ミルのスタローンやオーデマ ピゲのロイヤル オーク オフショア サバイバーほど心引かれるものではない。RM 032のデザインはRMのほかのモデルに比べるとやや飾り気が少なく、そこが私にとって少しワクワクするポイントでもある(参考までにRM ボンボンコレクションやRM 88 スマイリーを見て欲しい)。確かに、この時計は技術的には申し分ない性能を誇っているが、実際に着用するのはダイビングスポットではなくセーリングスポットを好む人々のほうが多いだろう。


 リシャール・ミルを語るうえで、その唯一無二のブランドアイデンティティを否定することは決してできない。ダイバーズウォッチであるがゆえに、伝統的なラウンドケースが採用されているものの(当たり前だが)、それでもなおブランドらしさは健在だ。素材、タイポグラフィ、そして遠慮のない派手さ。そのどれもが“これぞリシャール・ミル”と言わんばかりだ。さてここで直径50mmという“誰もが目を引く存在感”について触れてみよう。ラウンドのリシャール・ミルは果たしてリシャール・ミルといえるのか? 私はイエスと断言したい。

基本情報
ブランド: リシャール・ミル(Richard Mille)
モデル名: RM 032 オートマティック フライバッククロノグラフ アルティメット エディション(RM 032 Automatic Flyback Chronograph Ultimate Edition)

直径: 50mm
厚さ: 17.8mm
ケース素材: グレード5チタンとカーボンTPT®
夜光: あり、スーパールミノバ
防水性能: 300m
ストラップ/ブレスレット: ブラック&イエローラバーストラップ

ムーブメント情報
キャリバー: RMAC2
機能: 時・分表示、オーバーサイズデイト表示、月表示、フライバッククロノグラフ(センターミニッツ&セコンドカウンター)、12時間積算計、ランニングインジケーター
直径: 39.15mm
パワーリザーブ: 約50時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 62

オリス ダイバーズ 65に別れを告げる時計。

オリスは(2024年の)10月に、新しいダイバーズ デイトシリーズを発表した。これは同ブランドのアイコニックなダイバーズ 65コレクションが60周年を迎えるのを記念して、デザインを現代風にブラッシュアップしたものだ。10年前に登場したダイバーズ 65を受け継ぐ、よりモダンな後継モデルとして企画されたようだが、正直なところこれでダイバーズ 65のオリジナルモデルはもう見られないのかもしれないと思っていた。
どうやら私の予想は外れていたらしい。ダイバーズ 65が終わったという噂は、だいぶ誇張されていたようである。まあ、そんな感じだ。オリス初のダイバーズウォッチが誕生した1965年から数えて60年を祝うアニバーサリーモデルとして、ダイバーズ 65から60周年アニバーサリーエディションが登場したのだ。このモデルは懐かしいデザインやヴィンテージ感のあるディテールが満載で、いわばブランドの集大成のような時計だ。
オリススーパーコピー時計n級品 代引きの過去10年のラインナップに詳しい人なら、少し混乱するかもしれない。これは前からラインナップにあったのでは? と思う人もいるだろう。ある意味ではそのとおりだ。しかし少し違う。2015年、オリスは初代ダイバーズウォッチの50周年を記念して、モダンなダイバーズ 65を初めて発表した。これはオリジナルのデザインに非常に近いものだった。サイズは少し異なるものの、オリジナルのなかで最も印象的だった特徴、つまり文字盤を囲むように配置された3・6・9・12時の大きな逆夜光数字はそのまま引き継がれていた。

今回の60周年アニバーサリーエディションでは、あの大胆でアール・デコ風ともいえる大きな夜光数字が新たな形で復活している。文字盤にはオリジナルをさらにほうふつとさせるいくつかのディテールが加えられた。2015年モデルで見られた、モダンな“WATER RESISTANT”や防水性能の記載は、オリジナルと同じく“ANTI-SHOCK”や石数の表記に置き換えられている。そしてオリスの現代史では初めて、ヴィンテージ感漂うオリスのロゴとその下に“WATERPROOF”と記載されたデザインが復活した。インデックスはヴィンテージモデルのバランスに合わせて短く調整されている。また、2015年版のベゼル上部にあった三角マークは、よりオリジナルに忠実な、ベージュのスーパールミノバが塗られた夜光ドットに変更された。皮肉なことに、この60周年アニバーサリーエディションでは2015年版にあった日付窓が廃止されている。とはいえ実は日付窓があるほうが、1965年のオリジナルにはより忠実だったりするのだが。
光沢のあるブラックダイヤルは、現代的な40mmサイズのダイバーズ 65のケースに収まっている。ケースの厚みは12.8mm、ラグからラグまでの長さは46mmだ。防水性能は100mで、アルミニウム製インサートが付いた双方向回転式ベゼルが、大きくカーブしたドーム型のサファイアクリスタルを囲んでいる。ねじ込み式のスティール製ケースバックのなかにはセリタをベースにしたオリス製Cal.733を搭載し、この60周年アニバーサリーエディションがオリスのなかでも手の届きやすい価格帯に属していることが分かる。SSブレスレットに加えてレザーストラップも付属しており、価格は38万2800円(税込)だ。

2015年版がオリスのカタログから徐々に消えていったときは少しがっかりしていた。あの時計が本当に好きだったし、あのデザインがなくなるとオリスの歴史の一部が欠けてしまうような気がした。ただ時計の開発には時間がかかるのは分かっているし、60周年に向けて意図的にフェードアウトさせていたとしても不思議ではない。今はただ、戻ってきてくれて本当に嬉しいと思う。たとえこれが最後だとしても。

オリジナルに忠実な36mmサイズでの復刻はもう諦めているが、せめて38mmのダイバーズ 65が出てくれたらと思っていた。38mmというサイズは、ヴィンテージっぽさと現代的なダイバーズウォッチの絶妙なバランスを持つちょうどいいサイズだし、ほかのブランドがヘリテージ系でこのサイズを使うことはあまりないぶん、余計にその魅力が際立つ気がする。だが40mmのケースも実際につけてみるとすごくいい感じだ。ミドルケースのデザインがボリュームを抑えており、見た目以上にスリムに感じる仕上がりになっている。
実物を見ると、この時計は本当に素晴らしい。スタイリッシュな数字が好きな人にはたまらないデザインだし、文字盤に施された小さな変更がしっかりと存在感を放っている。この60周年アニバーサリーエディションは、時計好きやコレクターのためにつくられたモデルという感じが強い。しかもオリスがこのスペシャルモデルを、セリタをベースとしたラインに収めて高価格帯になりすぎないようにしたのは見事だと思う。

もしこれを手に入れたら、ブレスレットをつけたままで使い続けたいと思う。それくらいブレスレットとの相性が抜群だ。ダイバーズウォッチにレザーストラップをつけるのもおもしろいし、ラバーストラップのほうがもっとしっくりきたかもしれない。いや、いっそのことレザーもラバーも両方付けて、全部盛りでセットにしてくれたら最高だっただろう!
とはいえ、このダイバーズ 65 60周年アニバーサリーエディションは、オリスのなかでも特にユニークなデザインをもういちど蘇らせた素晴らしいモデルだと思う。ラインナップがどんどんモダンになっていくなかで、オリスが豊かで魅力的な歴史を持ったブランドだということを改めて感じさせてくれる。

基本情報
ブランド: オリス(Oris)
モデル名: ダイバーズ 65 60周年アニバーサリーエディション(Divers Sixty-Five 60th Anniversary Edition)
型番: 01 733 7772 4034-Set

直径: 40mm
厚さ: 12.8mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ブラック
インデックス: スーパールミノバをプリント
夜光: あり
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: SSブレスレットおよびブラックレザーストラップ

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